実は、本来のこのようなタキシードは、スーツと変わらない着丈です。
結婚式で新郎が着用するタキシードというとロングタキシードを思い描くかもしれませんが、ヒップが隠れるくらい。
またカジュアルな印象を作る場合や、モダンな雰囲気にする場合は少し短めの着丈にすることでその雰囲気がでます。
さて、タキシードの着丈はスーツと変わらないとご説明をしました。
では一体スーツと何がどう違うのでしょう?
一番象徴的なのが衿です。
タキシードの衿のデザインには2種類あります。
先が尖ったピークドラペルと、全体的に丸いショールカラーです。
そしてタキシードの衿には、拝絹(はいけん)と呼ばれる仕様になっていて、
シルクなどの素材を用います。
これは、照明が薄暗かった西洋で、少しでも光を反射させて、
顔を良く見せよう、とシルクを用いるようになった、などの説もあります。
そしてこのシルクは衿だけではなく、
ポケットの縁、ボタン、そしてパンツの脇のラインも一本、シルクが入ります。
ちなみにパンツのラインは側章といい、
パンツの脇の縫い目を見せることが恥ずかしい、という理由からシルクで隠したことがはじまりです。
現在でもこの後にご紹介する、燕尾服という衣装には、
側章が2本入り、タキシードは側章が1本と決まっているという説もあるのですが、本数ではなく燕尾服の方がタキシードよりもしっかり縫い目を隠すため、太い側章を用いるのが正式です。
また、タキシードにはスーツやジャケットのような切込みがありません。
そもそもスーツの背中のセンターベントやサイドベンツは、目的があって入っています。
センターベントは馬に乗りやすくするため、
サイドベンツは剣を抜き差しするためです。
写真のスーツはサイドベンツ仕様。
エレガントなタキシードは、馬にも乗らず闘いもしないため、ベントはないノーベントという設計です。
新郎が着るタキシードというと白を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、
実はこうしたタキシードは黒が正式です。
また、その昔は黒よりも黒っぽく見える、という理由から、
ミッドナイトブルーやネイビーが用いられることもあります。
ドレスを最大限に引き立たせるために、男性陣は全員がダーク系の色で統一しているのです。
そして、まったく同じ黒やミッドナイトブルーのタキシードを着た紳士は、顔や内面で勝負するというわけです。
もちろん、明るい色、とりわけ白がNGと言っているのではなく、この後に説明しますが、白タキシードが力を発揮するシーンもあります。
また、白タキシードの話になったので一つ。
白、シルバーのタキシードは、日本特有といって過言ではありません。
これはバブル期から続く、レンタルタキシードに多いトレンドで、衣装っぽさや、主役らしく派手に、という日本独自のブライダル業界の発想から生まれている節もあるようです。
ロングタキシードとは一体何なのでしょう?
お客様からフィードバックをいただいてわかったのですが、例えば貸衣装でロングタキシードを勧められた場合、それはモーニング・コートかフロック・コートの場合が多いようです。
言葉の問題ですからややこしいのですが、タキシードの定義として、ロングはあり得ないということになるため、ロングタキシードという名称の服自体が欧州には存在していないのです。
それでは、ロングタキシードがモーニングやフロックコート、またはそれに近いデザインだとすると、これらは本来は、一体これらはいつ、どのような場合に着るのでしょう?
もともとはダブルのフロックコートなどを着用して散歩していました。
その後改良されて、馬に乗りやすくしたり、歩きやすくしたり、
こうしてモーニングコートも登場します。
フロックコートはフロントのカットが角ばったカットの、
いわゆるコートのような見た目のものが多く、
モーニングコートはゆるやかに背中に向かってカーブしているデザインが一般的です。